役員に昇りつめた紅一点
1979年、日本社会において画期的な出来事がありました。高島屋の役員に石原一子さんが就任し、女性として日本で初めてこの地位に到達したのです。当時、男性優位の企業文化の中で、女性が役員になることはほとんど考えられていませんでした。それでも、石原さんはその壁を打ち破り、後に続く女性たちに道を開きました。さらに、経済同友会の初の女性会員にもなり、彼女の存在は日本における女性リーダーシップの象徴となりました。
女性役員比率の低さ:日本の現状
とはいえ、石原さんのような例は依然として珍しいままです。日本における女性役員の割合は、2023年現在でもわずか10%程度。政府は2025年までに30%に引き上げることを目標にしていますが、現実的にはまだ遠い目標に思えます。なぜこれほどまでに女性役員が少ないのでしょうか?その背景には、日本社会に根強く残る「男性は女性よりも強くあらねばならない」という慣習があるのではないでしょうか。
世界の事例:ルワンダとアイスランドの成功例
一方、世界を見渡すと、女性リーダーの活躍が進んでいる国々も存在します。ルワンダでは1994年の内戦後、国の再建において女性が重要な役割を果たし、憲法でクオータ制が導入され、議会の30%以上を女性が占めるように定められました。結果として、ルワンダは現在、世界で最も女性議員の割合が高い国の一つとなっています。内戦によって男性の人口が減少したことも一因ですが、国全体が女性の活躍を促進する仕組みを取り入れたことがこの成果を生んでいます。
また、アイスランドでは1975年に女性たちが労働を放棄する「女性ストライキ」が行われ、その後、男女平等が急速に進展しました。現在、アイスランドでは女性議員や役員の割合が非常に高く、女性の社会的リーダーシップが確立しています。さらに、近年の研究によれば、女性役員の割合が高い企業は経営成績が良くなりやすいというデータもあり、女性の存在がビジネスにもたらすメリットが注目されています。
日本の職場文化に潜む阿吽の呼吸とその壁
では、日本女性の社会進出を阻んでいる独自の問題とは何でしょうか。
日本の職場文化は長らく「阿吽の呼吸」によるコミュニケーションが当たり前とされてきました。言葉に出さなくても通じ合う、この暗黙の了解や馴れ合いのコミュニケーションは、同じ背景や価値観を共有する人々には当然のことだったのかもしれません。しかし、ここに問題が潜んでいます。こうしたコミュニケーションは男性中心の価値観で築かれたため、女性や多様なバックグラウンドを持つ人々には非常に入り込みづらいものとなっているのです。
阿吽の呼吸によるコミュニケーションでは、話の流れや背景が共有されていることが前提で、相手の意見をすべて確認することなく進行しがちです。これでは、女性や多様な視点を持つ人が発言する機会や、異なる意見が真摯に受け止められる場が十分に確保されないことが多くあります。新しい視点や柔軟な発想が必要とされる今の時代には、このような暗黙の了解に頼るコミュニケーションが、大きな障壁となっているのです。
丁寧でオープンなコミュニケーションがもたらすもの
こうした問題を解決するためには、阿吽の呼吸ではなく、丁寧でオープンなコミュニケーションが重要です。発言を相手任せにせず、意見を聞く姿勢を持ち、相互理解を意識した対話を心がけることで、多様な人材が能力を発揮しやすい職場環境を作ることができます。日本の企業文化において、男女問わず各メンバーがリーダーシップや意見を尊重されるためには、この「丁寧な対話」が欠かせません。
また、丁寧なコミュニケーションは、組織の信頼関係を強化し、異なる視点が生まれやすい環境を育みます。メンバーの多様性が発揮されることで、企業の柔軟性や競争力も向上し、女性の活躍に留まらず、組織全体にとってのメリットがもたらされるでしょう。
女性の社会進出に向けて
とはいえ、日本の職場では阿吽の呼吸によるコミュニケーションが美徳とされてきた側面が強く、丁寧なコミュニケーションの実現は難しいでしょう。加えて、「男性は女性よりも強くあらねばならない」といった慣習もいまだに残っており、女性との協調は難題であるといえます。しかし、女性の社会進出は、社会全体に多様性と革新をもたらし、企業や経済の成長に貢献する重要な要素であり、人口・地域・福祉・労働・子ども・環境・食などの様々な課題解決への大きな一歩と言えます。
文化や慣習の変化には長い時がかかります。長年男性優位で働いてきた世代が急に変わることは難しくても、若い世代から少しずつ寛容になっていき、世界と同じように働きたい女性がイキイキと働ける世の中が来ることを願っています。
